或人、弓射ることを習ふに、諸矢をたばさみて的に向ふ。師の云はく「初心の人、二つの矢を持つことなかれ。後の矢を頼みて、始めの矢に等閑の心あり。毎度、ただ、得失なく、この一矢に定むべしと思へ」と云ふ。わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。懈怠の心、みづから知らずといへども、師これを知る。この戒め、万ことにわたるべし。
道を学する人、夕には朝あらんことを思ひ、朝には夕あらんことを思ひて、重ねてねんごろに修せんことを期す。況んや、一刹那の中において、懈怠の心あることを知らんや。何ぞ、ただ今の一念において直ちにすることの甚だ難き。
訳
ある人、アプローチをするのに、このボールをぴったし寄せてやるとばかりに打とうとするとき『ボールは飛ぶように飛ぶ。そこにうまいもへたもない。アマチュアはそんな自分をうまいと思っている。それがすでに慢心である。萎縮すれば近くでミスをする。慢心すれば遠くでミスをする。どちらも打つ前から安心しようとする心がある。目標を定めてからボールが飛んでゆくまで、周りに溶け込まないといけない。』我が出てくると慢心になる。我が出てくると萎縮する。我の心は知らぬ前に心を染める。知らずと知らずと謂えども、上手はこれを知る。この戒め、全てに通ず。
道を学ぶ人、夕には明日がまだあるからいいと思い、朝には夕方まで時間がたっぷりあると思う。それまで自分がしっかりやればいいと思っている。それが慢心である。既に懈怠に汚染されたことに気付いていない。ただこの一瞬の間だけでも、懈怠でないというのは、難しいものである。
どういう風に打つべきか。あまたの中では何が起きているべきか。
何ことも頭の中で何かを動かさなければ始まらないはずである。
もちろん、意識が知る頃には遅い場合がある。意識してからでは間に合わないことはたくさんある。それでも、Reaction として意識が働かなければ、出来ないこともある。
頭の中で動かすとは二つ以上の異なる状況を重ねることだと思う。そこに違いがあるならそれは動いたと言える。
この動くことを明瞭に意識することが違いに敏感になることである。勿論あらゆる情報を全て比較するのは実用的ではない。よって意識するとは、この比較する場所を限定することだと言える。
練習場では、スイングについての考察を重視するため、飛行線については余り考えない。それでも何度も繰り返し打っている間に、方向は自然と極まってゆく。
しかし、それは狙った方向に打つというよりも打つ度に微調節してゆくことで自然と決まったものである。だからいきなりどこかを狙って打つという力はついているとは言えない。
人間は常に意識することで身に着けることが出来る。それが自然とできるようになれば成功と言えるだろう。だから、漠然と打つよりも、短時間でも意識してやる方がいいという話がある。
漠然と自然に覚えるというのは自然な方法であるが、それが常に完全というわけではない。
いずれにしろ、狙った場所を打つ時には、方向と距離が必要である。
練習場では一点式の方法で行っている。それはスタンスに対してスイングだけをするという方法であって、方向性はほとんど無視している。
この方法では打感を重視している。スイングの全体の流れで、無駄な力は入っていないか、よりパワーのある打ち方はないか、と模索している。
しかし、この方法では当然だがコースへのフィードバックは多くはない。コースでは一回しか打てないからである。何度も何度も打ち直して、段々とブラッシュアップする練習場と、ただ一回だけを狙うコースとでは、求められる質も量も明らかに違う。
これを練習場で意識するためには、二点間の打撃が必要だろうと思ったのである。二点間とは、目標地点があり、そこに向かってスタンスをするという意識である。
これを意識すると、スイングには、ただ打つのではない、新しい制限が加わる。
まず目標地点に対してスタンスを取るようになる。次に、トップの位置からクラブを落とす方向に目標地点がなければならない。
力んだり、体が早く回ってはいけない。
よいスイングのためには、腕は小さく回さなければならない。
体が開いてしまわないように、お腹の動きが重要になる。
お腹がスイングの邪魔をしないようにしないといけない。
それでも、距離に対して、体は自然と反応しようとするから、大きなクラブで近くを狙ったり、小さなクラブでより遠くを狙うことを繰り返し、過剰な力が筋肉を動かさないよう意識することも大切になる。
過剰な力がスイングが狂う最も大きな原因であろう。なるべく遠くを狙う方が結果は良いようである。そのクラブで到達できる距離よりも、近くをターゲットにする方が、失敗する可能性は高くなる。
速度を抑制する、力加減を抑制する、体の動きを抑制するなど、力をセーブする動きが、全体のバランスを狂わせるからである。
車で急ブレーキを踏むと、リアが左右に振られるようなものである。
左右に揺れればクラブの飛線は不安定になるだろう。
もし、大きいクラブで近くを狙いたいならば、それなりのブレーキの踏み方があるはずである。シャフトを短く握る、小さく打つ、やっぱりクラブを小さくする。
いずれも重要なのはタイミングである。
この二点(自分の立っている場所とボールの目標)を意識した打ち方で練習をすれば、もう少しコースで打っているに近づけるかも知れない。