2016年11月6日日曜日

練習場より 2016.11.06号 - スイングをよく整備せよ

人間の動作というものは日常生活では大抵は成功するものである。コップを掴むのに失敗したなど聞かない。もし落としたらそれは病気の兆候である。

それくらいに自分たちは日常生活の中で体の使い方に対して無頓着である。無頓着でもうまく動くようになっている。我々は、何も意識しなくたって、うまく立ち回っていると思い込んでいるわけである。

例えば自転車。何も考えなくても乗ることができる。漕ぎ方で悩むこともない。だから競輪選手やロードレーサが自転車に乗っているのを見れば、自分でもできそうだなと思ったりする。

何も考えなくても自動車が運転できる。だからレース場でかっ飛ばしてみたいなと思ったりする。

それもこれも、我々の日常が、失敗に対する許容範囲を広くとるように上手く作られているという事実を忘れているからである。

コップを持つのに数センチずれたところで、困らない。それは人間がうまくやっているのではなく、そうなるような形状で作られているだけである。あれはどこを持っても落ちにくいように工夫されてきた形なのである。これは人類が長い時間をかけて洗練させてきた形と言ってもいい。

自転車は、自転車の機構だけではなく、それが走る道路もまた自転車が走りやすいように作られてきたのである。だから自然の地形を走るトライアルなどは、はなから無理と思うわけである。

トライアルは無理で、ロードレースならやれそうだと思うのはなかなか無邪気な考えである。

どのような競技であれ、最高峰のプロともなれば、重心の位置であれ、関節の角度であれ、筋肉の使い方であれ、数mmの精度、時間にして0.1秒単位の精度で競っている。

そういうぎりぎりの極めて恣意的に成功させなければ成立しない世界でその人たちは競っている。それを形だけ真似て似ているから自分でもできると思うのは、景徳鎮の偽物を本物と喜んでいるのと相違ない。

人間は無意識に出来ることは、自然に出来ていると思い込んでいる。しかし、人間は上体を起こす動作さえ、どの筋肉をどのように使うかは人それぞれで異なっているといってもいいくらいに自己流である。背筋で上体を持ち上げる人もいれば、腹筋で押し上げる人もいる。

ただまっすぐ立つ動作でさえ、どの筋肉をどれくらい使っているかは何通りもあって、関節の角度まで測れば千差万別であろう。

どれが自然かと問われたらどれも自然である。それは正に多様性という自然の戦略である。試行錯誤によって可能性を高める進化論の中は、どの方法も不適合や不適切がありうる。どれも可能性の問題であり、それを決定するのは環境との相性だからである。単なる組み合わせの問題だからである。

意志をもち恣意的に行う方が、成功率は高まる。自然がそのような方法を取らないのは、意識的に対応しようとする方法は想定内のものにしか対応できないからである。その程度の低い限界に、生命のすべてを委ねるわけにはいかない。

もちろんこれは種の戦略の話であって、ひとつの命、一回の人生に限れば、時代の限界や制限、科学知識、無知、未解明に翻弄されるとはいえ、自然の多様性に賭けるよりは遥かに成功率は高い。また自ら選択し決断する満足感も得られる。

完全ではないが、こうすればと思う方法を試す価値は十分にある。もちろん、それでも失敗する可能性は高い。それでも全体としての視点から攻略するか、個々の視点に攻略するかという選択肢があることは望ましい。

ゴルフスイングは極めて高い精度を求めるものである。その運動は日常生活の延長線には決してない。とても特殊な運動である。

たった一球のスイングが、ピットで整備したレーシングカーのタイムアタックのようなものである。走行前によく点検し、整備を完璧してからコースに送り出す。その繰り返しの中で勝負事は決まってゆくわけである。

スポーツのすべては人間の数百もの関節の角度の組み合わせと言ってよい。その僅かな差がどれだけ影響するるかは明らかである。一度ずれるだけで、100m先ではどれほど違うか。少しのタイミングの差でスイングは全く違うものになる。

体幹の右側への右腕の当たり方ひとつとっても、その影響は莫大である。その違いだけで、見ているだけでは違いがなさそうに見える二つのスイングが実は全く違う、という事はあり得る。

それを本物と偽物と呼んでも差し支えない。カマキリとカマキリモドキかも知れない。進化論ではどちらが優れているという話はない。

機械やプログラミングであれば、関節にセンサーを乗せて、角度を測ったり、モータの回転を制御すれば理想的なスイングが再現できるかも知れないが、人間ではそうもいかない。人間は全ての関節を意識的には動かせないのである。

だから、どう意識して、どう反復して、練習を積んでも、まったく同じスイングをするのは難しい。さらにスタンスも風も湿度も刻一刻と変わってゆく。

いずれにしろ、角度は重要である。スイングは、最初にゴルフクラブを落とす所から始まる。位置エネルギーを運動エネルギーに変える運動は、自然と右腕の位置をどうするかを規定する。あまりに、体の横すぎれば、右から左への移動で障害になるし、前に出過ぎたら、横移動する時に力が集中できないであろう。

背が丸まった形では、ドライバーでは力が上手く発揮できないし、だが、後ろに伸び切ってしまうと、今度はピッチでの精度が落ちる。それぞれで角度は違うであろうという事は予測できる。

まずは右腕の角度というものについて、この精度について検証したい。

0 件のコメント:

コメントを投稿