2018年6月3日日曜日

練習場より 2018.06.03号 - 右腕とYak-38

ロシアに Yak-38 という VTOL機がある。イギリスのハリアーに対抗してソビエトが開発した機体であるが、その目的はVTOLの技術を世界に示す事であって、実際に戦闘機として優秀である必要はなかった。本機は極めて政治性の強い動機で開発され翻弄された機体である。それでも技術的に見れば多々の興味深い点がある。どのようなものもエンジニアリングの観点からすれば面白みがあるものである。


(Yak-38)

(Harrier)

Yak-38 はハリアーとは異なり推進用とは別に垂直離昇用のエンジン(リフトエンジン)を搭載していた。このような設計では、推進用のエンジンは離着時には停止しており、リフトエンジンは推進時には停止している。止まったエンジンは、ただの重りであるから、軽量化の道を辿った鳥の進化と比較すれば、全く理解できない設計であった。

重い機体というのは、活動時間も航続距離も短くなり、速度は遅く、運動性能は悪く、搭載兵器も少なくなる。悪いことしかない見本のような機体であるが、そんな事はヤコヴレフ設計局の連中だって百も承知していたのである。そこには、そうするしかなかった理由がある。

いずれにしろ、失敗機の烙印を押された本機ではあるが、その失敗は、ゴルファに十分な示唆を与えてくれる。

我々の右腕はクラブをトップ位置まで持ってゆくのに使用される。右腕の役割はそこで終わるから、その後はただの重しである。これは Yak-38 のリフトエンジンと同様であるが、人間なので切り落とす訳にもいかない。もし簡単に腕が切り落とせるならシャイロックの悲劇もアントニオの喜劇も生まれなかったであろう。

そのため、人間はスイング時に、右腕がただの重しとならないように工夫する必要がある。腕は人体でも重い部位である。かつ長い棒状なので、重心の移動が全体に与える影響も無視できない。

そこでスイング時には右腕にも十分な加速を与える。トップ位置からスイングに以降する時には、右腕が十分に落下するのを待つ意識をする。落下は重力を使った自由落下とする。

右腕が十分に落下するのと同期して、スイングを始める。感覚的には、長いクラブほど落下にかかる時間が長くなる。それだけスイングは遅れるように感じられ、ドライバーで最大となる。体が動いた後に暫くしたら腕が通過する体感である。

PWなどでは腕主導でスイングしても誤差が小さいので大した問題は起きない。クラブが長くなるにつれ誤差は大きくなる。右腕の落下を待たずにスイングをすると右腕は右に向かう抵抗として働く。

西側からはまがい物Forgerと呼ばれた Yak-38 ではあるが、このような構造的な欠陥を抱えながらも、一応の実戦に投入できる完成度は持っていた。本機の込められた様々な工夫には驚いてもいいはずである。

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