2016年6月11日土曜日

GOLF 2016/06/11 - ホイヘンスと重力

思うにスポーツとは重力の使い方を体で覚える事だ。

ゴルフにおける重力と言えば、トップの位置でクラブヘッドが受けるものが最大のもので、その位置エネルギーが利用される。もちろん、体も重力は受けているし筋肉の動きは無意識下に重力を利用したものである。ボールの運動も同様である。ボールがどれくらい飛ぶかは、重力が分かっていなければ求められるものではない。それが自然と分かっている人はフライを捕るのも上手い。

重力を利用するのはパターを打つときもそうであり、重力に逆らわない様に打つ方がいいに決まっている。

重力に逆らう、自由落下に逆らう。これは、新しい力の合成が加わるのと同じである。その余分な合力の分だけ運動は複雑になるという事である。複雑であれば軌道は不安定になりやすい。

パターはなるべく自由落下であることが望ましい。だから、その動きは振り子的になる。

振り子の動きはガリレオによって観察された。

T(周期)= 2π√(L(長さ)/g(重力定数))


ガリレオ(1564 - 1642)は、教会の振り子を観察(見ているだけでなく時間や距離を計測する方の観察)して、振り子の振幅の周期(元の場所に戻る時間)は、振幅の大きさ(揺れる幅の距離)に関係なく同じであることを発見した。

これを振り子の等時性(周期=時間が同じ)と呼ぶ。この振り子の性質は、等時性を利用すれば振幅を気にすることなく時間をカウントできるという事であった。これは単に揺らせばいいという話であるから使いやすい性質である。

振り子はほっておけば自然と止まるのでゼンマイなどの機構により揺らし続ければかなり正確な時間を刻む事ができる。実際に振り子時計は長く生活の中で使われてきたのである。

振子時計 - 金沢工業大学
クリスチャン・ホイヘンス | 時の有名人 | THE SEIKO MUSEUM セイコーミュージアム

ホイヘンス(1629 - 1695)は、振幅が大きい場合、この法則が成立しない事を発見した。また、この等時性は、サイクロイド曲線で振り子が運動する場合は常に成立することを証明した。

サイクロイド曲線とは
x=r(θ−sinθ),
y=r(1−cosθ)
θは任意の角度(0~2π)、rは長さ。

rを半径とする円をx方向に転がした時のある一転の軌跡。

最急降下線
AからBに転がり落ちる曲線でもっとも早くBに辿り着ける軌道。

ホイヘンスが振り子に利用したのはサイクロイド曲線であったが、それを実現するのに、ラッパのような管を使う事で振り子の軌道を調整した。その詳細は次のサイトを参照されたい。

ホイヘンスの振り子(サイクロイド振り子)...♪ - アットランダム - Yahoo!ブログ

振り子の両側をラッパのような管で覆うと、振り子はラッパのガイドに従って軌道が変化する。このラッパの形状をサイクロイドにしておけば、振り子もサイクロイド曲線の軌道を描く。なんという天才。

また、ホイヘンスは、ふたつの置時計が同期する現象(リズム現象)を発見した。これは振り子のかすかな振動が壁や柱を通して伝わる事で起きる現象である。それによってふたつの時計がいつの間にか同調してしまう現象である。これはふたつのメトロノームを使えば簡単に再現できる現象である。

わずかな振動が振り子に影響を与える。これは当時においてはとても致命的な話であった。

GPSのない大航海時代には、緯度と経度を割り出す事が船の位置を知るのに重要であった。緯度は日没時の太陽の位置や一日の長さから割り出すことができたが、経度はそれを求める事が出来なかった。

経度を求めるには正確な時間が必要であった。毎日の時刻を知ることができれば、例えば毎正午時の太陽の位置を求めれば経度を知ることができる。昨日と今日の太陽位置の差は、経度の差と比例する。必要なら季節の違い(カレンダー)も考慮すればよい。

同期現象を起こす時計では航海には使えない。船が揺れてしまえばその影響を受けて時間が狂ってしまう時計では航海で正確な時を刻む事ができないからだ。

SYNC: なぜ自然はシンクロしたがるのか - スティーヴン・ストロガッツ

この問題の解決にはジョン・ハリソン(1693 - 1776)によるクロノメーターの発明まで待たなければならなかった。


さて、振り子の話はゴルフとは何の関係もない話である。

著名なスポーツ選手たちは物理学のフの字は知らなくても正しく重力を使いこなす。物理学の計算式は知らなくても物理学の要請から外れることはない。彼らは物理学に則って最大限のパフォーマンスを発揮する。

それでも多くのスポーツ選手は物理学を知らないので、若い時に出来ていたことが、筋肉の衰えや、反応の鈍感に伴い、違ってくると、その違和感に対応できない場合がある。それを感覚(主に若いときに培われた)だけで訂正しようとしても状況から脱出しきれるものではない。

パターでは特に顕著であるが、クラブの重さを感じて、重力に沿って落ちるように打つべきだ。その落ち方がボールに対して進行方向を向くように調節することが筋肉の役割となる。

重力に従って落ちる場合、当然だが、体が揺れたり、回転する動きを与えようとしても方向性の安定は得られない。重要なことは力を加えることではなく、余計な力を排除することだ。

体の左サイドは固定し右サイドは動かす。これがトップでの動きであり、パットは特に右サイドだけで、最低限の動きに留めるべきだろう。

勿論、これはパターだけでなく、アイアンでも同様である。如何に重力を使ってクラブを落下させるか、その軌道から逆らわないようにするか。当然だが、重力で落ちるといっても、まっすぐ下(鉛直垂直線上)に落ちるものではない。トップの時に筋肉が与える力でそれは曲線軌道を採用するはずである。

人間の体ほどではないにしても、ゴルフクラブも十分に複雑な物理的特性を持っている。それを数式で表現する能力はないので、アニメーションでそれを表現できればいいのだが、それも難しい状況だ。よって、各人は体感してみて重力を使うということを感じるしかない。

重力に逆らわない:これは重力のみで落下させるという意味ではない。クラブは筋肉を使って加速する。その時に得られた軌道が重力(自然のあり方、物理学)で得られた軌道に逆らわないようにする。誰も物理学からの要諦に逆らうことはできないからである。

ゴルフをもっとも変える要因は重力定数 G の値だろう。だから G が異なる異星ではゴルフは随分と変わったものになるのではないだろうか、と思ったりもする。

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