2015年10月25日日曜日

練習場より 2015.10.25号 - 六割の十割

「六割の十割」という言葉がある。

これはスイングを六割の力で行う事。但し、それを100%の力で行う。

では十割のスイングとはどういうものか。十割とは全ての筋肉が参加するという事だ。筋肉は収縮と伸長の働きをするが、これらは座標(x1, y1, z1)を(x2, y2, z2)の地点に移動させる運動である。

座標の移動は(x2-x1, y2-y1, z2-z1)で表現できる。その結果は正の値、負の値、0 のいずれかになる。
  1. 正 - 移動(伸長)
  2. 負 - 移動(収縮)
  3. 0 - 静止

0 の場合、(x1,y1,z1)と(x2,y2,z2)の位置関係は崩れず、体の位置が保たれる。ここで重要な事は、移動も静止もどちらの運動も筋肉を必要とする。これらの運動は骨と腱と筋肉が三位に繋がっていることで成立している。

十割のスイングをイメージして見ると、どうも全部の筋肉が収縮するイメージがある。大前提として「収縮こそ力を発揮する運動」があるようだ。そこでは「静止」の価値が見落とされている。スイングで超新星爆発の前の重力収縮をイメージするのは間違いなのである。

リラックスするのが六割の目的ではないのである。スイングのうち、全体の四割は動かないはずだという意味だ。

普段のコースでは更に六割の六割くらいでやり過ごすべだ。

フルパワーのスイングとは、打てば飛ぶようだが、逆に言えば、一切の余裕がない。それを日常の仕事に置き換えれば、タイトなスケジュール、枯渇した人材、毎日変わる仕様、止まない不具合報告。

既に破綻であり、ついに破滅である。もし満足感や充実感を得たいのであるなら、体の一部が十分に働けばよく、全体が十割で動く必要はない。恐らく7割ともなればオーバースイングだ。はあはあぜいぜいするセックスだけが充実感ではないのである。

練習場より 2015.10.25号 - システマ

世界の果てまでイッテQ!でシステマが紹介されていたが、その面白いこと。
Russian Martial Art Systema

体なんか殆ど止まっている。ただ腕を振り下ろすだけ。それなのに強力な破壊力が込められているように見える。この合気道みたいな動きがどうして可能なのかと言えば、精密に人間の動きに対して物理的だからだろう。

相手の挙動、呼吸などを丹念に観察すれば、人間の体にはどうしても取りえない方向というものがある。そこに抗えない角度の力を与えれば、それに呼応したレスポンスが発生する。それを合理的に連続してゆけば、自然とこう動かざる得ない所に追い込まれ倒れるしかないような動きになるのだと思われる。

人間の運動に万能な動きなどない。ある状態から取り得る方向は有限であり、咄嗟にどのようにでも反応できる訳ではない。ボクシングやテニス、野球の基本となる構えはなるべく自由自在に動けるよう体を固くしない。

最初の構えで重心を揺らすのは停止状態を作らないためである。体を固定化しないようにするためである。体を揺らしている時に逆方向へ動けるものではない。それでも筋肉が停止しているよりは反応が上がる。停止した所から動かすよりも、収縮や伸長を繰り返している時に、それを訂正する方が早いのだと思われる。

棒立ちよりも膝を屈伸する方が反応が早い。伸長する前には必ず収縮が必要である。棒立ちから収縮して伸長するよりも、屈伸した状態から伸長する方が反応は早いはずである。この時間差が決定的な早さに繋がる。

もちろん、体を左右に動かしている時に、逆を突かれると咄嗟の反応は出来ない。だから多くの場合、反応する瞬間は左右前後の動きも瞬間的には止めてフラットにしているはずである。これは停止ではないが、動いてもいない。そういう無重力のような状態を作り出す。それは恐らく数秒しか維持できない。

どのような状態の時にも動ける方向には制限が加わる。自由に動ける構えはあり得ない。故にスポーツであれ武道であれある状況に特化した自在さが前提となる事は間違いないだろう。ある分野では必要としない方向は切り捨てる。必要な中に最大限対応できるように構えが生まれる。そういう前提が構えの中にはあるという事だ。

そこを誤解して万能な動きがあると考えると誤ってしまうだろう。どのような時にもどうしても抗えない外部からの力がある。対応するタイミングと方向を外されれば耐えきれないベクトルがある。そのとき、例え僅かな力でもあっけなく倒されるだろう。

それはゴルフスイングも同じ。

肩を左右に回そうとする。そのとき、腕はどういう形になれば良いか。腕を高く上げるのが良いのか、両ひじを張った方が良いのか。体の横に付けるのが良いか、体の後ろに付けるのが良いか、前が良いか。

ゴルフスイングでは肩が左側を向く動きが起きる。そうしないとフィニッシュできない。その時に、肩が左を向くのは、どのタイミングで、どれくらいの力で、行うべきだろうか。そこにも最適解があるだろう。

スムーズに肩が回るためには、腕との関係が重要なはずだ。肩と腕は関節でつながっているから、肩の動きはスイング中のクラブの軌道にも影響する。

そこで思うのだが、肩がダイレクトにパワフルにクラブに力を与えるためには、理想的な位置関係があると思う。ある形を取ると肩が最もスムーズに回る。肩を回すタイミングとクラブがボールにヒットするタイミングには何か関係する。

腕が左足の前を通る時、足も体幹も腕も一直線になる。原子が同じ方向を向くことで磁力を生むように、体の筋肉も同じ方向に一斉に向く事で何かパワーを生む感じである。全てが一瞬で交わい、それぞれの軌道に離れてゆく感じ。