~秘密は二の腕にあった!狙った所に確実に飛ばすスイング~
もし、何かで腕の先を肘からすっぽり切り落されたと仮定してみよう。事故か何かで不幸にもそうなってしまったのである。
そこで、肘から先には義手とゴルフクラブを装着する。そうやってスイングしたのが理想のフォームだ。スイングは二の腕、もっと言えば肘で打つ。これは従来から主張していた「スタンスの位置に手を戻す」の拡張版だ。戻すべきなのは、手ではなく、肘なのだ。体という意識から肘から先は捨て去ってしまってよい。
何故か。
肘から先は、自由な"しなり"が発生するので意識ではコントロールしきれない。そのコントロールを諦めた方が実はコントロールできるのだ。何故なら肘から先を意識すると力が入りすぎているから。
肩からクラブヘッドまでを一本の棒だと思ってスイングしてもそれは強力なスイングにはならない。それよりもセットアップしたときに、肘を意識して、そこだけでトップを作り、元に戻すように振る、そう考えたほうが余計な力が入らずオーバーコントロールにもならず正確なショットが生まれやすい。
二の腕だけを振るというのは、試してみると何んとなく力が入らない感じがする。肩から肘までの動きというのは、どれだけ強引に振り回しても大きな力は生れない。幾ら振りまわそうとしても物理学的にパワーを生みだす為の長さ(距離)が足りない。
だが、その肘までのスイングの結果、肘から腕、腕からクラブヘッドまでの長さが自然な"しなり"を持った動きをしてくれれば、これは最大限にゴルフクラブを働かせた事になる。ドライバーならば肘よりもかなり遅れてヘッドが追い付く感じがするだろう。それでいいのだ。
肘が動く軌道と、ヘッドが動く軌跡(完全な円ではないが)は、円周の違いから距離が異なる。運動する時間も異なる。この差がヘッドスピードである。
肘の長さを 30cm とすれば 2*30*π(cm)、肘からクラブヘッドまでを 1m とすれば 2*120*π(cm)、60:240 = 1:4 これが距離の比である。スイングの時間差を 0.5秒 だとすれば、180cmの距離の差をクラブヘッドはたった 0.5 秒で追いついた事になる。クラブヘッドは等速度運動でないからボールに当たる瞬間の加速度は肘の速度の8倍程度にはなっているであろう。肘が 5m/s で動いているとしたらヘッドは 40m/s で動く。
肘を意識の中心としたスイングの良い点は、スイングが単純に意識される点にある。上げた肘を元の位置に戻すだけの動作で、これは意識が可也単純にできる上、意識して制御する関節が少ないコントロールしやすい。スイングの意識上の単純化はそのまま安定性に繋がる。
もし肘から先が義手であればと仮定してみるが実際にそうであれば簡単にはボールを打てないだろう。肘から先の動きは無意識下によってコントロールされている。このコントロールが失われた義手ではやはり違った困難があるだろう。幸いなことに多くの人にとって義手ではないので勝手に手が制御してくれる。
ゴルフのスイングというのは非常に高速な運動である。どれくらい高速かと言えば、意識でコントロールできる速度を超えている。この速度は意識して筋肉を反応させる速度を超えているのだ。肘を意識するというのは、意識しても意味がない部分を意識の外に排除した打ち方と言える。
さてスイングにはもうひとつ大切な事がある。
それは、スイングする時には頭から完全に言葉を追い出すと言う事だ。頭の中で言葉が生まれいてはスイングにならない。セットアップしたら全ての言葉を追い出す、沈黙し沈思する。フィニッシュまでそうある方がいい。
これは集中とは違う話である。脳の中で言葉が生み出されている状態では体のコントロールができないのだ。打つ時にチャーシューメーンと声を出すのはいい。腕を動かすように声帯を震わせているだけならば。だが頭の中で言葉を生みだしているのなら、それはやらない方がいいだろう。
言葉を生みだす脳の状態は、体へのフィードバックも生み出すと思われる。言葉だけで体が反応しないと言う事はないだろう。それがどこかの筋肉への電気信号となり、スイングを狂わせる事は十分に有り得る事だ。
打つ時に不安がよぎりボールに当たる瞬間に緩む、というのは誰もが経験する。不安は直ぐに言葉を生み出す、強すぎるかも、弱すぎるかも、このような意識の湧出は百害あって一理なしだ。江夏の21球みたいな話はトッププロの奇跡の様なパフォーマンスであるとよくよく知るべし。
雪がしんしんと降り積もった時の音のない世界のように、頭の中から言葉を追い出し静寂な世界に入り込まなければならない。これがスポーツをする楽しみかもしれない。頭の中から言葉を追い出し空っぽにする、そしてスイングする、という行為は、上等なストレス発散の方法でもある。
そんなスイングには結果に左右されない価値がある。たとえミスショットしても受け入れる事ができる。ゴルフは、最初のホールのティーグランドの一打目が一番緊張する。だが、今思い返してみると、違うんだなぁ。最初のグリーンオンを狙うショットが一番に緊張する。二打目か、三打目。
その時こそ頭から言葉を追い出し、沈思の中、肘で打つ。
それが良いと思う。しばらく練習してみたら、また考えが変わるかもしれないが、それは将来の事なので悪しからず。
さあ、みなさん、そろそろゴルフの季節ですよ。